バレーボール県大会、敗退の夜の怪 [4]
バレーボール県大会、敗退の夜の怪 (4) |
県内の中学校が多数参加している県大会は、2日間の日程であった。 恥辱に満ちた試合内容と敗退の事実を書いた後で言いづらいのだが、我々は勝ち進むことも予想し、翌日の準決勝や決勝戦に備えて、その日は宿泊することになっていた。 ということで、歴史的大敗をした後は、他校のバレーボールの試合(我々の試合はバレーボールではなかったから…)を観戦して、夕方旅館に入った。 いかにも合宿や研修に使われそうな建物の造りで、他の中学校も複数宿泊していた。 我々は、20畳くらいの仕切りの襖を外した長方形の部屋をあてがわれた。 そこで食事をし、寝床もその部屋に布団を敷くのである。 我々は各々、自分の場所を確保して、荷物を置いた。 さすがに中学生なので、屈辱の敗戦から半日経過すると、もう試合のことは忘れていた。 買ってきたお菓子を食べたり、ふざけあったりして、もはや修学旅行気分である。 夕食前に、2~3人ずつ、風呂に入るようにと旅館から指示があった。 大浴場には他校が入っているらしく、我々は小さなほうの風呂場を使うことになったので、数人ずつ入浴するのである。 私は、現在でも付き合いのある(共に高校卒業までロックバンドも組んでいた)親友Fと、後輩の2年生の3人で風呂に入った。 湯船は2人入れないことはないが、ぎゅうぎゅう詰めになるので、順番に1人ずつ、ゆったり浸かるしかなく、残りの2人が洗い場で体を洗うことにした。 最初にFが湯船に入って、私と後輩の2人が、洗い場で頭や体を洗った。 「今日の試合に初めからワシを出しときゃ、もっと試合らしゅうなったんじゃ!」 と、Fが湯舟の中で白いタオルを使いながら言った。 「なに言(よ)うるんなぁ。お前が試合に出てからも、いっこもスパイクが決まらんかったじゃろうが!」 と、私は応酬した。 「あれは、お前らのせいじゃ!」 「しゃあなかろうがぁ、作戦なんじゃけぇ!」 「何が作戦じゃあ!」 Fが怒っている気持ちは、私にはよ~く分かった。 彼は、(普通とは違った意味での)『すごいプレー』をしていたのであった。 それで機嫌が悪かったのだ。 というのは…。 試合中、プレーの失敗続きで委縮してしまい、前述した消極的すぎる作戦(攻撃はせず、ともかく相手コートにボールを返すこ とだけに専念)を採用した我がチームであったが、Fに対して、たまたまかなり良いトスが上がった。 打ちやすそうなトスが上がったので、Fは、 「しめた!」 とばかりに、すでに助走からスパイクの体勢に入っていた。 Fの頭の中のイメージでは、空中に高く跳びあがったFが、目にも止まらぬスイングでボールをひっぱたき、そのボールが相手選手の数人を吹っ飛ばしてしまう!という妄想が描かれていたに違いない。 そんなの、絶対に、妄想でしかないんだが…。 Fの妄想はともかく、作戦(相手コートにともかくボールを返して相手のミスを待つ)を遵守したい我々は全員で、 「ばかぁ! 打つなぁ! ともかく相手に返すんじゃぁ!」 と叫び、それを聴いたFは空中でスパイク動作を断念し、スパイク動作を途中でやめたため、へんな体勢になって着地した。 そして着地したFの頭には、上から落ちて来たボールが当たり、コートの外に落ちて転がったのだった。 レ・ミゼラブル! |
(このお題、つづく) |
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