バレーボール県大会、敗退の夜の怪 [3]
バレーボール県大会、敗退の夜の怪 (3) |
「おお、でかい体育館じゃ!」 体育館でバレーボールをしたことがほとんどなかった、哀れな弱小中学バレー部員の我々は、近代的な体育館の内部で思わず声を上げていた。 体育館のフロアには2面のコートが設置され、県内から勝ち上がったチームで予選が行われる。 我々の一回戦は、最初の2試合のうちの、ひとつであった。 「おお…すぐ試合かよぉ。ドキドキするのう」 「ともかくMをセッターにして、少しポジションとか確認せんと、どうにもならんぞ」 「ほうじゃ、ほうじゃ」 この話に、部活顧問の先生が登場しないのに不審を感じられる方もおられるだろうが、形式上はともかく事実上、そういう存在はいなかったので出てこないのである。 この県大会遠征に付き添いで来ていた先生は、バレー部とは関係ない先生であり、我々は試合については自分たちですべてを決定しなければならないのであった。 良く言えば、『生徒の主体性を重んじたスポーツ教育』であり、悪く言えば、『指導者のいない烏合の衆』であった。 そのうえ、セッターでキャプテンのO君もいないわけだし…。 さて…。 試合前の練習の時に、我々の対戦相手のチームを見ていると、我々との実力差は、さほどなさそうだった。 「おい、あいつらなら、勝てるかもしれんぞ」 「そうじゃのう。くじ運に恵まれたようじゃ」 隣りのコートの別試合の広島市内の強豪チームの練習に目をやると、もはや我々とは雲泥の差というか…、体格も同じ中学生と思えないほどデカイ者もおり、技術も卓越していることも一目瞭然で、とても彼らと戦う気にさえならないのであったが、それに比べれば、対等な試合ができそうな相手だった。 「ああいう、強豪チームと違うけぇ、こりゃワシらでも、勝てるでぇ!」 そういう意気込みで、試合に臨んだのであった。 部員全員の中学時代の青春エネルギーを全注入した、我が中学校の県大会初出場の記念すべき第一戦は、あっさり2セットを連取され、たったの25分で終わった。2セットもあるのに、25分…。 相手チームは確かに弱かったのだが、こちらはそれ以上の弱さであった。 緊張で金縛りになり、正セッターのいない我がチームは、まともなプレーが何もできず、サーブもアタックも、レシーブもほとんど失敗の連続であった。 まず、体がこわばってしまい、全員サーブが入れられない。 しょうがないので、我がチームのサーブは、全て『アンダーサーブ』となった。 「上から打ってサーブしたら、どこに行くかわからん。入れときゃええ。下から軽く打って、ともかく入れるんじゃ!」 これは相手チームにゆるいチャンスボールを供給するだけのことであり、強くもない相手チームでさえ、綺麗にレシーブをし、いい感じのトスがあがり、そこそこ強烈なスパイクを打ってくるのであった。 バレーボールは、『まず、相手をサーブで崩す』のが鉄則だが、『相手に攻撃しやすい甘いボールを与える』というのだから、とんでもないことである。 が、こちらがサーブをほとんどミスするのだから、相手にチャンスボールを与えて相手がミスするのを祈るほうが良いのであった。 とはいえ、その初心者の小学生がするようなアンダーサーブでさえ、3本に1本はネットにかけてしまうという、金縛りの悪魔にとりつかれた我々であった。 が、問題はサーブだけではなかった。 そもそも、相手サーブをほとんどレシーブもできないのだ。 一つの要因は緊張であるが、もう一つの理由は、試合会場が体育館なので周囲に壁や天井があるため、距離感が狂ってしまっているからでもあった。 いつもは遥かかなたにある青い空と白い雲がなく、すぐ頭上近くに鉄骨の天井がある。 普段の練習時の周囲の光景は、遠くあちらにサッカー部、こちらに陸上部などの開放感あふれる野外なのだが、県大会のその場所は、牢獄のような四方を壁で囲まれた息苦しい空間なのである。 我々はそういう会場のストレスとも、闘っていたのであるから、試合どころではないのだ。 そういう精神的プレッシャーに打ち勝って、なんとかレシーブができても、正セッターがいないのでまともなトスは上がらない。 かろうじてトスらしきものがあがっても、我がチームのスパイクはことごとくネットにぶつけるか、コートの外の…といってもライン付近とかではなく、打った瞬間から失敗とわかる大飛球で、ボールを体育館の壁にぶつけてしまうのであった。 私もそういうチームの勢いに引っ張られ…、いや私が悪い方向にチームを引っ張ったとも言えるが…、私には細かな技術は無かったがパワーはあったので、体育館の天井近くの窓まで、力いっぱいのスパイクを何本も放ったのであった。 大きな打撃音とともに、壁や天井めがけて飛んでいくバレーボール! すでにスポーツではなく、体育館破壊活動! すごいぞ、三中男子バレーボールチーム! 相手チームは、自分たちの手の届かないところ(壁とか天井とか)に向かって炸裂する、我がチームの攻撃をただ呆然と見ているだけで、どんどん点になるのであった。 もはや、これは、まったく違う競技! そして、1セット目の途中からは、サーブだけでなく、我々チームは攻撃(スパイク)することも諦めた。 「なにをやっても失敗ばかりじゃ。もう攻撃はするな。なんとかレシーブして相手コートに(相手にとってのチャンス)ボールを返すことだけ考えるんじゃ!」 という悲しみのあふれる作戦?を採用したのだった。 が、当然のこと、そういう作戦になんの効果もなく、いや…そういう作戦のおかげで、我々は記録的短時間で1回戦敗退をしたのであった。 |
(このお題、つづく) |
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