孤立無援の一人応援団 【カープvs巨人】 [2]
孤立無援の一人応援団(2) |
試合が始まった。 ビジターの広島カープの攻撃からである。当然のこと、私はおとなしく試合を見守った。 あたりは広島弁に満ち満ちている。当然すでにカープファンのみなさんには酒も入っているようだ。 さてその裏の巨人の攻撃となる。 私は(今考えると、どうかしているとしか思えないのだが…)ひるむことなく、ジャイアンツと大書した旗を持ち上げ、レフトスタンドの最前列で振り回した。 さきほども書いたように、最前列だから目の前は通路で思い切り振れるのである。 「おら~、行け~!ジャイアンツゥ~!!」 ある意味、これはとんでもない行為であろう。 私の後方は、すべてネイティブに広島弁を話すカープファン。 そして、闘魂と化した正真正銘の応援団が満載である。 そこではカープ応援団の本物の巨大な旗が立ち並び、トランペットや太鼓がいくつも鳴り渡り、赤いハッピであふれているのだ。 (おそらく)たった一人の若者(私)が狂ったように目の前で自作のジャイアンツの旗を振りながら、大声を出している光景が、あまりに予想外の出来事だったからか、目の前でジャアイアンツに声援を送る酔狂者の私に対して、後方のカープファンからは怒りではなく失笑がおこっていた。 「おお、なんやあいつ!がんばれよ~」 「アホがおるでぇ~」 みたいな感じである。 それとも、一人応援の私が、どうにも不気味なので、そういうふうにして態度を紛らわすしかなかったのか? そのときのリーグ順位や対戦成績はカープが上位であり、そのことが私に幸いしたといえる。 その日の試合も、結局0対9(私の記憶)でジャイアンツは全く良いところなく負けるのである。私の熱狂的な応援にもかかわらず…。 篠塚だったと思うのだが、サードからタッチアップしてライトのライトルの矢のような返球でホームアウトされたり、もうジャイアンツファンには、さんざんな試合なのであった。 だから、私は無事だったのか? たぶん半分の理由はそうだろう。 (もう半分は、広島県人は意外と優しい? 仁義ある人々!) カープファンというのは、チームが強くなって応援団が自主的にマナー徹底を呼びかけるような心の余裕ができる前は、広島球場の外野(球場内!)で焚き火をして弱いチームを奮起?(脅迫)させようとすることもあったのである。 (私の記憶では、その外野席で焚き火があった試合はテレビ中継されていて、リポーターによるとあの世界に誇る衣笠選手がベンチで泣いていたそうだ) 敵の渦中での私の熱烈な応援にもかかわらず、巨人軍は大敗した。 これが私の球場に行った最初の経験であった。 少し悲しいし、やはりそんな私は不憫だ。 おそらくだが、この日たまたま私の故郷のチームであるカープ戦であったから私は恐れることなく(ちょっと、びびったけど)旗を振れたのであって、もしこれがタイガース戦やドラゴンズ戦であれば怖くて何もできなかったであろう。 (他のセリーグチームなら微妙) 今、私は、紆余曲折を経て平和にカープを静かに応援している。 同窓のLINEグループで、カープの話題が出ていると、一人で微笑んで、みんなの熱いメッセージを読んでいる。 (話題についていけないだけ…?) 幼馴染の根っからのカープファンである親友F夫婦と私夫婦で、時々球場に行く。 私はカープグッズを一つ身につけ、カープを応援する。 カーン! おお、カープに本塁打が出たぜ! 妻が私に訊く、 「今、打ったの、誰?」 私は答える。 「スズキセイヤだよ」 私はスコアボードで打った選手の名前を確認して、カープファンになりすましている。 (このお題、完) |
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