蜂 [1]
蜂 [1] |
風呂上がりに、ベランダから取り込んだばかりの洗濯物の中にあったパンツを履いて、蜂に刺されたことがある。 そう。 パンツの中に蜂がひそんでいたんである。 さいわいなことに、内またあたりを軽く刺されただけですんだ。 刺されたところによっては、大ごとだったと思う。 洗濯物の中に蜂が隠れていたという話は時々聞くから、そう珍しいことではないのだろう。 蜂といえば、私には忘れ難い思い出がある。 小学低学年の夏休みの、午後のことであった。 母がお好み焼き店をやっていた家の近くに、一般サイズの校庭ほどの空き地があって、そこが廃材置き場になっていた。周囲は畑と住宅地であった。 その廃材は、近所の銭湯で湯を沸かすのに使われており、ときどきトラックが家屋などを解体したものを積んできては、野積みにしていた。 積まれた高さは2~3メートルあり、戸板や柱や壁面から剥がされた板が混在しているので、ところどころにいい感じの隙間ができ、雨が降っても濡れない箇所が自然にあちこちにできていた。 私たちはそこを『基地』にし、色々なものを持ち込んで整備した。子供が必ずやることだろう。 その廃材を使う銭湯には、湯舟が3つ(男女で6つ)もあり、私は体が小さかった幼児のころには潜水したりして遊んでいたし、小学生になると【マブチモーター】をつけた潜水艦の模型を潜航させていた。 そんなことをしていても、怒られた記憶がない。 不思議だ。 その銭湯のボイラー室を見たことがあって、経営者のおじさんに色々教えてもらって知ったのだが、基本的には重油を燃料に使っているが、それより安くつく廃材も併用していたんである。 さて、その夏休みのある日の午後。 私はその廃材置き場で、数百匹の蜂(ミツバチ? 大きな鉢ではなかったような記憶…)が、(直径30cm長さ5mくらいの)廃材から出ている樹液に群がっているのを発見した。 家の廃材から樹液が出るとも思えないので、山から集められた倒木なのかもしれない。 私はなぜか魅入られたように、その木の樹液に群がる蜂の大集団を見た。 どういうわけか、しばらく、その場で立ち尽くしたのだった。 虫の集団がうごめく様子は、私にとって気味が悪いものだったし、蜂が危険な昆虫だという知識もあった。 が、私は、じっとその生態を観察した。 今では昆虫は『気味わるい』と思うようになってしまったが、子供のころは平気で何でも触れたし、興味があったのだろう。へんな夏休みの自由研究もしたし。 私のそのとき、ふと、こういうことを考えた。 「こいつら(蜂の大集団)を脅かしたら、どういう行動をするんだろう?」 どういう行動って…。怒って襲ってくるに決まってるじゃないか! しかし私は、なぜか、そういうふうには考えなかった。 それじゃあどう考えたのか?ということは、まったく憶えていない。 しかし、襲われるとは考えなかったから、私はあの驚くべき行為に及んだのであろう。 |
(この話、つづく) |
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