蜂 [2]

蜂 [2]

私は近くにあったソフトボール大の石を拾い上げ、その石を(蜂の集団にではなく)その集団から50cmくらい離れた木の部分に思い切り投げつけたのであった。

石は見事に木材を直撃し、その激しい振動で蜂たちは攻撃されたと判断してか?(まあ攻撃したわけだが)パニックになり、ほとんどの蜂が一瞬で空中に飛び上がった。
恐ろしい数の蜂たちであった。
彼らは、空中でグルグルと小さく旋回して反撃用の集団態勢を形成した。

【北斗の拳】で、レイが奥義『飛翔白麗』で宙に舞った姿に心をうばわれたユダのごとく、そのときの私は、その蜂の空中での集団行動の美しさに見とれた。

「おおっ!」
である。

が、すぐさま、その声は、
「あっ!」
に変わった。

そう。
日体大の『集団行動』のごとくの、蜂の集団行動の美しさに感心しているどころではないのであった。

蜂たちは私が襲撃者であることを察知(周囲に誰もいなかったから)し、その蜂の黒い集団は、一部は個々に飛びながらも、全体として明らかに私に対しての一斉攻撃を開始したのであった。

「げげっ!」

私はある種の夢から覚め、覚醒して現実を把握した。

「や、ら、れ、る!」

動物の自己保存本能的な危険と恐怖を感じた私は、当然のことその場から逃げ出した。
全速力!

しかし私は、同時に悟っていた。
「絶対、逃げ切れない」
と。
相手は、飛行する昆虫なんである。人間が走って逃げられるわけもない。

家の裏口が数十メートル先に見える。あの中に逃げ込めば安全である。
が、逃げ込める可能性はゼロである。絶体絶命!

私はその時、
「あ、そうか! この手があったぞ」
と思いつき、その場に倒れて【死んだふり】をした。
私は地面に伏して、じっと動かず息を止めた。

5分後、私は首後ろあたりを数か所刺され、泣きながら家に帰った。
さされた傷は大したことがなかったが、心に傷を負った。

「死んだふりをしたのに、なぜ?」

私はその体験を夏休み明けにクラスの友達に話した。
「なんで刺されたのか…わからんのじゃ」
と、私が最後に言うと。クラスメート達が一斉に爆笑した。

「死んだふり? それは、熊じゃろうがぁ!」
「クマ?」

そのあとも、ずっとあとに大人になってからも、何度かその話をし、その都度、同じ反応に遭った。
でも、私は今でも、なぜ刺されたのか、疑問なのである。

蜂に襲われたら、死んだふりでしょ?
だって、熊だったら食べられちゃうよ。

妻いわく、
「蜂に襲われたら、水に飛び込むのよ!」
だそうである。

(この話、おわり)

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2019年07月02日