(大昔の)大阪万博の苦い思い出 [9]
(大昔の)大阪万博の苦い思い出 [9] |
それまでコンパニオンのお姉さんの指示に従って結果を出していた子供たちと異なり、彼女の指示を無視した私のプレーは、途中で中断され終わっていた。 異様な結末に会場はざわつき、私が茫然自失しているとき、進行役のコンパニオンのお姉さんが、 「あ~ぁ、コンピューターが怒って(ゲームを中止して)しまいましたね!」 という、明朗だが理不尽な説明が会場全体になされたのであった。 私は、この言葉を一言一句、今でも忘れらない。 そのときの、お姉さんの嬉しそうな声色も。 その進行役コンパニオンによる説明の意味を理解するため、一瞬観衆は、し~んと静まり返った。 そして、次の瞬間、私にとっては悪夢であったが…、会場は大爆笑に包まれた。 「えぇ~、コンピューターって怒るんかい?」 「そんなことあるのぉ? おもしろ~い!」 「ぎゃははははははは!」 「わははははははは!」 「あららら、あの子(私)可哀そうだけど、笑えるぅ!」 「うそぉ。コンピューターが怒ったの? 故障じゃなくて?」 「あ~そうか。あの子(私)が、コンピューターに無理な指示を出したからってこと?」 「このガキ、好き勝手にやりすぎたみたいだぜ」 会場は、おおよそ、そういう雰囲気になってしまっていた。 念入りなプログラミングがされていれば、感情を表現できるような賢いコンピューターがないこともなかろうが、50年も前の当時に、【AI】という言葉の萌芽もない。 そういう時代の、コンピューターが怒るわけないじゃないか。 いやまぁ…映画では、それ以前に公開されたスタンリー・キューブリックの傑作『2001年宇宙の旅』で、コンピューターのHALが怒って反乱してはいたけど…。 残念なが、あれは映画だ。 私は会場を取り囲む観客に笑われ、プレーヤーの立つ台の上で晒し物のようであった。 恥ずかしくて、いや悔しくて!、顔が真っ赤になった。 どよめきと哄笑は、しばらく続いた。 これまでの子供は、(コンパニオンさんの指示通りにして)全員が成功させていたゲームなのに、私は失敗でもなく、意味不明の途中棄権なのである。 それも、コンピューターの怒りをかって…。 「コンピュータの怒り?なに言うとんじゃぁ~!!」 「あんたの怒りじゃろうがぁ!」 「コンパニオンのねえちゃん! あんた、なんか秘密のボタンを押したじゃろうがぁ!」 「ワシは見たでぇ!」 私はネイティブ言語の広島弁で、ただし心の中で、そう叫んでいた。 どうにもこうにも、悔しかったのだ。 「これ、ホンマに音声認識のコンピューター制御なんかぁ? 全部インチキで手動じゃなぁのか!」 (この最後のセリフだけは、そのときは考えつかず、大人になってから、時々思い出しては心中で叫ぶようになった) が、もはや、すべては終わったのだった。 私は、観衆の失笑と同情の渦の中で、静かに寂しく、プレーヤーの台から降りた。 ほとんどの子供がもらっていたプレー成功の賞品をもらえなかった。 こんな理不尽があっていいのか! と、いう気持であった。 コンパニオンのお姉さんは、長いゲーム待ちの子供たちの列をさばくため、私の失意や自分のあくどい行為(秘密のボタンで私のゲームを中止)など忘れて、もう次の子供の相手をしていた。 チラリと見ると、その次の子供もお姉さんに逆らう意気地などなさそうだし、コンパニオンさんの指示に従わない場合にどうなるかを見てしまったので、 「うん、うん」 と、説明や指示に素直にうなずいていた。 ふん! 私は、そのイベント会場を涙ぐんで、去った。 弟は、脱臼して吊った左手が動かせないので、右手で私の手を握った。 私の悔しさを理解してくれたのだ。 ありがとう、弟よ! お前のおかげで、アメリカ館の月の石を観れなかったが、許すぞ! でも…。 そのあと、目的の日立館に並び、飛行機の操縦シュミレーターを体験するアトランクションをやった。 6人乗りのシュミレーターで、座席の前に飛行機の窓から見える映像が流れ、それを見ながら一人が操縦をするのである。 私を元気づけようと、叔父は私を機長(操縦者)にしてくれた。 「よし、ここでさっきの悪夢を振り払うぞ!」 私は張り切って、操縦桿を握った。 なんとか離陸には成功したが、私は着陸時に操縦を誤り、我々の機体は爆発し大破大炎上した。 シュミレーターの中は真っ赤な色に包まれ、座席は大きく振動し、警告音が鳴り響いた。 そして、目の前のモニターには、こう表示された。 全員死亡。 私の1日だけの大阪万博は、このようにして終わった。 そして、コンピューターに怒られた私は、10数年後にゲーム開発者となり、今ではゲーム界からは去ったが、この30数年の間、毎日パソコンを操作して、なんらかのプログラムを作っているのであった。 (このお題、おわり) |
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