ご神体を見たい? [2]

ご神体を見たい? (2)

翌日。

私は早朝に起き沐浴潔斎して…と思ったが、前日の祭りの酒が体をぐったりさせており、そういう清く正しい準備はできなかった。

普通よりも遅く起きて歯磨きと洗顔だけはさっとすませ、自転車で神社に向かった。
神社の前では部長さんが昨夜の酔態とは違い、いつもの生真面目な表情で凛と立って私を待っていた。

どうやら酔っぱらった勢いで、できない約束をしたということではなさそうだったので、安堵した。せっかくワクワクしながら来たのだから。

「宮司さんに鍵は借りておいた」
「すごいですね。借りられるんですか」
「御神体を作ったのは俺だし、どうせ俺がときどき手入れするために中に入るから、どうってことない」
「なるほど」

この会話…。
昨日から気になってはいるんだが…、話の対象が犬小屋の餌皿とかならわかるが、相手は神社の御神体なんだけどなぁ…。
罰が当たらねばいいんだけど、ちょっと怖いぞ。

その神社には小さな社殿があるだけで宮司は住んでいない。どこかの大きな神社の配下として管理されているのだろうか。

部長さんは社殿の鍵を開け、私を中に導いた。
薄暗くて厳かである。
奥に御神体の鎮座しているらしい小さな祠があり、扉がかたく閉ざされていた。

「ここだ」
「・・・」
声を出してしゃべるのは不謹慎な気がしてきて、私はうなづくだけにした。

部長さんは祠の前で丁寧なお辞儀をした。私もそれに倣った。
そして部長さんはゆっくりと観音開きの扉を両手でゆっくり開けた。

私は緊張していた。
なにしろ【御神体】なのである。
「これだ」
「・・・」

中には木目の美しい木製の精巧な作りの【和船の模型】がポツンと置かれていた。

江戸博物館とか船舶歴史博物館みたいなところに展示してありそうな代物だった。
全長30センチくらいだったろうか。

「はぁ~、これは船ですね」
私は少しばかり、気持が空振った感じだった。
なにかわからないが、もっと「すごいもの」を期待していたからだ。
(これを読んでる’あなた’もそうでしょう?)

「うむ、和船だ」
「細部まで見事な作りですね」
「俺は腕がいいんだ。せっかくだから拝んでおきなさい」
「はい」

部長さんと私は、その御神体をしっかり拝んで扉を閉じた。

社殿を出てから私は部長さんに訊いた。
「バチが当たりませんかね?」
「ははは大丈夫。俺が作ったんだから」
「…」

なるほどそれはそうだろう…とは思ったが、腑に落ちなくもある。

バチをあてるくらいのパワーもないなら、地域を護り鎮めるパワーもないんじゃないか?
私は地域住民として、また地区役員として、微妙な不安を感じつつ帰路についたのだった。

(このお題、完)

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2018年11月06日