自販機の『あたり』
自販機の『当たり』 |
飲料水の自販機で購入後に、3桁~4桁のデジタルの点滅があって、その数字がそろうと『もう一本』というクジがある。 いつごろから、自販機にああいう『くじ機能』がついたのかは知らないが、30年くらい前にはあった。 なぜなら、私が初めて自販機で『もう一本』当たったのが、そのころだからである。 当時住んでいたところは、田畑だらけの東京の郊外でコンビニなどもなく、夜中にジュース類を買い求めるには自販機しかなかったようなところだった。 その自販機も、ちょっと歩いて行く…ような距離にはなかったんである。 私はフリーでゲーム開発をしており、夜中が活動時間であった。 プログラミングに集中すると、昼間に買い物をするのも忘れてしまい、夜中に飲み物がないことがった。 そういうときは、自転車に乗り、真っ暗な田園地帯の半農道を走り、自販機に向かうのである。 数十年前くらいのことなのに、野犬が群れになって襲ってきたりすることもあった。 田園地帯の真っ暗闇の中に、異様に輝く一台の自販機。 私は、その夜、2本の炭酸飲料を買ったが、その2本目が当たったのだ。 そういうクジはインチキとは思わないが、ほぼインチキに近いほど当たる確率が低いと思い込んでいたので、自販機のデジタル数字が、ピピピピピ…と動いていても、私はそれを見もせず、背を向けて自転車のペダルを漕ぎかけていた。 すると、ピピピピピの後に、軽妙なメロディが流れた。 振り向くと、すべての購入ボタンが点灯していた。 「おおっ・・、当たるんだ」 私は、思わずつぶやいた。 そして、ありがたく、もう一本をいただき帰路についた。 それが人生初の『自販機、もう一本当たり!』体験であった。 それから、どこかで、もう一回、自販機くじに当たった。 その時のことは、あまり覚えていない。2回目だったし、びっくりはしなかったからだろう。 確か車を自販機前に停めて買ったときのことだった、という記憶がある。 3回目に当たったときのことは、よく憶えている。 その後何度が引っ越し、多摩川に近い住宅街の一軒家を作業場兼自宅にしていたころのことである。 やはり夜中に起きて(昼は寝て)、ゲーム開発をしていた。 駅まで近いので、コンビニは近くに何店舗かあったが、飲み物だけなら家のすぐ近くの自販機で十分なことが多い。 その夜、私は上下スエットような格好で、炭酸飲料を求めて近くの自販機に徒歩で向かった。 時刻は、最寄り駅で最終電車が乗客を降ろしたころであった。 ほぼ深夜なのだが、住宅街なので最終電車を降り、家路を急ぐ人が数人歩いていた。 もちろん、どこの誰かは知らない。 私が自販機で缶ジュースを買ったとき、たまたま30歳くらいの男性帰宅途中者がひとり、すぐそばを歩いていた。 その自販機は当たり付きだったが、そこに住んで十数年の間、数百本購入したはずだが当たったこともなく、当たる気もしなかった。 『正真正銘の ”当たるかも詐欺インチキ自販機"(私の思い込み)』のはずであった。 ところが、そのとき、その自販機が…。 ピピピピピピ…ちゃららぁ~ん!(夜中なのに、やや激しい音響と点滅) 見事に、当たったのであった。 私は声には出さず、 「当たるんだ…」と、つぶやいた。」 全灯した購入ボタンを眺めながら、私がどれにしようか悩んでいると、私の背中で、その通りすがりの男性が小声で言った。 「当たるんだ…」 私は思わず振り向いたが、その男性は私のほうを見るでもなく、家路を急いで前を向いて歩き続けていて、その表情は見えなかった。 その様子から、私に言った言葉ではなく自分自身に思わずつぶやいたようだった。 私は彼の背中に向かって反射的に、 「たま~に当たるんですよ」 と、(真夜中の住宅街でもあるし)、かなりの小声で応答していた。 辺りが、シンとしていたから聞こえたのだろう。 男性は振り向かず、ただ小さく右手を上げて、そのまま街灯の向こうの闇に消えていった。 |
(この話、おわり) |
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