犬といったら、”シェパード” [3]

犬といったら、”シェパード” (その3)

大型犬を飼うことに憧れていた親父の予定では、親父が餌の皿を持って現れると、この外国犬は可愛げな態度で尻尾を千切れんばかりに振りながら駆け寄ってきて、喜び勇んで親父にじゃれつき、親父はその頭をなでながら、
「お座り」
「待て」
「よし」
とかコミュニケーションをして楽しむつもりだったらしいのだが、(小学校低学年の我々兄弟も、猛獣のような洋犬に対する、父のそういうカッコイイ姿を期待していた)、実際は、親父が【ドル】の前に姿を現すと、どういうわけか狂気に近い興奮度合いで吠えまくられ、そのうえ、その凶器そのものの牙で、ガブリ!と手を噛まれ、親父は、最初の対面の後、もう一切【アロー】に近づけなくなってしまったのである。

ところが、どういうわけなのか…。

猛犬【ドル】は、狂ったように吠えていても、母がお好み焼きを焼区手を止めて、裏口から顔を出し、庭に向かって大声で一喝すると、頭を低くし上目遣いに母を畏怖した様子になり、すぐ大人しくなった。

【ドル】には、母がお好み焼きや汁うどんなどの店の残り物を与えており、母が食べ物を持って行くと、喜び勇んで駆け寄り、静かに黙々と食べるのであった。

おそらく、『食べ物をくれる人』という認識が、母に対する恭順な態度の理由だったろう。

当時は深く考えなかったが、今考えると、【ドル】に対する親父の失望は大きかったろう。
念願の大型洋犬を、(まがい物をつかまされたとはいえ)かなりの高額で買ったのに、その犬が家族の前で自分をコケにし、あろうことか『か弱い』はずの自分の妻には子分のように尻尾を振っているのである。

犬は『家庭内で誰が主人』かを見抜き、家族に自分を含めた順列をつけるそうである。

子供で身体が小さかった私と弟は、【ドル】より下位で、基本的に無視。
毎日、お好み焼き店の残り物を食事としてくれる母が、【ドル】のご主人様。
朝から夜まで家にいないし、何もしてくれないくせに威張った態度で接してくるから、(たぶん)「なんかコイツ気に入らねぇ!」と思われていた親父は、【ドル】にとって敵で、積極的な攻撃対象。

【ドル】が我が家に来て数日後には、もうそういう態度であった。

しかし、この初代シェパードの【ドル】は、数か月後、ジステンパー(らしい)で、あっけなく死んでしまった。
何か苛立ったように吠えてばかりいたし、あまり懐かなかったので、もとより身体に不具合があったのかもしれない。

大昔の田舎町には、今のようにペット病院があちこちにあるわけでもなく、ペットの病気についての意識や知識も乏しく、「生き物だから死ぬだろう」という感覚であった。

これは動物に対する愛が少ないということではなく、江戸時代より現在のほうが、人間の平均的な健康寿命が大幅に伸びていることと、同じようなことなのではないかと思う。

(つづく)

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2020年12月20日