ロサンゼンルスの迷子 [4]

ロサンゼンルスの迷子(4)

タクシーが走り出してから、ラスベガスでゲーム展示会を観るため日本から来たこと、今日は道に迷ったこと、途方にくれたことなどを彼に話した。
グレゴリーがとても親切で明るくて、彼からしきりに私に話しかけて質問してくれたから、それに答えたのである。

彼の英語は、私にはわかりやすかった。
それもそのはずで彼は英語ネイティブではなく、5年位前にナイジェリアから来たということだった。

「妹はサンタモニカにいる」
と彼は高速道路の地名標識を指して言った。
「ほら、あっちさ」

道路は空いている。順調である。
そう思えたので、私の口も軽くなった。

いろいろ話しているうち、私はあることに気づいた。
フロントガラスの助手席側の隅に丸い穴があき、ひび割れが走っている。どう見ても、映画などで見る『弾痕』である。
それにしてもそれを放置していていいのか?フロントガラスが割れないのか?

「あれは拳銃で撃ったような穴に見えるけど…」
と私は訊いた。グレゴリーは頭を振りながら苦笑いをして、
「2週間前に強盗に襲われた」
と答えた。

「強盗?」
「そうさ。ちょうど同じこの道路で日本人3人を乗せていたんだ。前に車が割り込んできたと思ったら急にブレークをかけて止まるんだ。で、横にも車がいたんだ。だからオレも止まるしかない。そしたら横にいた車もオレの車の後ろにピタリと停車した。そして何人か降りてきて、一人がいきなり外から撃ったんだ」

「え!この道」
「ああ、日本人は身包みはがされた。怪我がなくてよかったよ」
おいおいおい…。

「怖いなあ」
「ほんと、怖かったよ」
「それでも、まだタクシードライバーしてるの?」
「学費を稼がなくちゃいけないからね」
「そうなんだ…」

そんな話をしているうちに、車は無事空港に着いた。
私は、どうしても彼の写真が撮りたかった。私がカメラを出して構えていると、そこに黒人の女性が通りかかった。彼女は、状況を察したようで、
「私が撮ってあげるから、二人そこに並びなさい」
と言ってくれた。 その写真が、この旅行で一番の思い出写真となった。

<エピローグ>
私は空港内で社長たちを探した。
夜遅くフライする便は少ないから人も少ない。彼らも私をある意味私以上に血眼になって探していたので、すぐ合流することができた。
もちろん社長はカンカンであった。

「何も言わずに消えるとはなんだ。心配するだろ。俺たちまで帰れなくなるじゃないか!」
その通りであった。私が全面的に悪い。いかに社長とケンカしていてもだ。
私は社長に対してだけはブスっとした態度は保ちつつも、最大限にみんなに謝った。

K氏が、
「まあまあまあ、冒険したかったんだろ?」
と茶化してくれて、社長の怒りも何とかおさまった。

それから十数時間後、私たちは早朝の成田空港に着いた。
格安便を使ったので、すごい早朝に着く。手荷物検査場に他の便の乗客はいなかった。
係員が手ぐすね引いて待ち構えている。

そこで我々4人は、『禁制品』を発見されヒドイ目に遭う(…まあ自業自得)のだが、その話は、お次で。

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(このお題、完)

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2019年01月21日