八神純子さんとポプコン [2]
八神純子さんとポプコン(2) |
その大会当日。 開催地が地元の市民会館なので、私たちは楽器を荷台に乗っけて自転車で会場に行った。 ドキドキである。 初めての大きなステージだし、当時のミュージシャンが目指したポプコン予選だし、何せ地元である。 ん~、こわい。 こわいぞ! リハーサルも終わり、本番が始まる。 何番目の出場かは覚えていないが、ついに我々の出番が来る。我々はステージに出て行きスタンバイする。司会者がエントリーナンバーとバンド名と曲名を告げる。 「どうぞ~!」 当時人気のあった『チューリップ』調のポップな歌の始まりだ!(自分で言うか…) 自分が作った曲だから、私は今でも憶えているし、唄える。絶対に唄わないけど。 私はこのときのことを思い出すと、今でも楽しくてしかたないが、同時にとても苦い感情も持っている。 予選会には色々なタイプの出場者がいる。バンドもあれば一人で演じるいわゆるシンガーソングライターもいる。 楽曲だけ書いてプロ歌手に歌ってもらうというものもある。(これが私が提案された形式) だからステージにはヤマハ楽団(十数人?)がいるのである。 もちろん、バンドの演奏のときや弾き語りのようなときには、彼らは演者の後ろの闇の中でじっとしている。 曲によっては手拍子だけして盛り上げる演出もする。 大会直前の練習の後、特訓の担当だったヤマハのミュージシャンの人は、暗い顔をしていた。やはり我々の演奏が最低レベルにも達しないからである。 「このままじゃぁ、ちょっと…。君たちの後ろでヤマハも演奏することにしよう」 「していい?」とかではなく「する!」という決定口調であった。 不本意ではあったが、我々のバンドがステージで演奏することには変わりない。多少のヤマハの【補助】があっても、だ。 そのようないきさつの中での本番であった。 リハーサルのときから、なにやら、 「バックにいる【補助】のヤマハの演奏が本格的だなぁ」 とは感じていたが、自分たちが失敗せずちゃんとパフォーマンスできるかどうかで我々は頭がいっぱいであったから、そんなことは気にしていられなかった。 無事?、我々の本番での演奏は終わった。 私は司会者に呼ばれて話を聞かれ、どこがどうはまったのかわからないのだが、会場を大爆笑させるコメントを発して爪跡を残したのだが、いうまでもなく『お笑い大会』ではないから、無意味である。 結果、我々は当然のごとく予選落ちした。 その結果には失望はしたが、特訓を課せられるというマズい状況下で、なんとか自分たちの演奏で自分たちの楽曲を披露でき、それなりに満足していた。 我々はまだ若かったし、音楽は音楽医的才能でなく、努力でなんとかなると夢想したりできるお年頃だったのである。 友人が会場にカセットレコーダーを持ち込んで、我々の演奏を録音していたので、あとでメンバー揃って、それを聴いた。 (後日、ヤマハが録音したテープをもらったような記憶もあるが、はっきりしない) 会場に座った友人が膝の上に乗せたカセットレコーダー本体についているマイクで録音したため、色んな雑音も入り音質もひじょうに悪かったが、そのとき初めて客観的に自分たちの演奏を聴いたのだった。 「ん?」 「あれ?」 なんか変である。 ボーカルの声は聞こえるのだが、我々の演奏が聴こえない。聴こえるのはヤマハ楽団の演奏のみである。 厳密には我々の演奏音も聴こえるのであるが、列車が通過するガード下で鳴くコオロギの声くらいの感じである。 我々バンドメンバーは唖然とした。暗然ともした。 そして猛烈に恥ずかしい気持が襲ってきた。同時に多少の怒りも感じた。 あの特訓はなんだったのだ! なんだった? ムダだった。それだけのことだ。 どうやら、我々の演奏音をミュートするという、 『大人の判断があった』らしい。 我々はひどく落ち込んだが、なにしろ若かった。 我々は発展途上である!と自然に思うことができた。 「よし、来年に向かって練習だ!」 翌年も私が曲を作り、テープ審査で県大会に出た。 そのときは…書くのも怖いが(今だからやっと書けるが)、私がピアノを弾きながら歌った。自分の曲だし。 もちろん、今度は我がバンドもちゃんと演奏した。 見事に予選に落ちた。 そういう経緯があって、40年後に私は、同時期にポプコンからスターになった八神純子さんと握手していたのである。 多少の感慨以上のものがあって当然だろう。 ライブ会場から駅まで、妻と歩いた。 「あれが『同期』の八神純子(さん)だ。テレビじゃなく実物見れただろ?」 と私が言うと、すぐ妻に容赦なく突っ込まれた。 「『同期』? ひゃはははは…(爆笑)」 笑うがよい! 妻も、世間も! 私だって今は、こだわりも恥ずかしさもなく、思い出してもただただ懐かしくて楽しくて、ちゃんと当時の自分を笑えてるんだから。 わはははは! (このお題、完) |
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