あの子は、どこへ? [2]

あの子は、どこへ?(2)

そして、数十年が経過した。
あの思い出に戻るには・タイムマシンが必要なくらい、月日が過ぎてしまっていた。

私は、オリンピックにも出てないし、ミュージシャンにもなっていなかったが、結婚して東京近郊に住んでいた。そのうえ、年齢も、中年もすぎていた。

私は気質的なものか…ほとんど昔を懐かしまないので、小中高の学校のこともクラスメイトのことも、全然覚えていない。誰々と言われてもほぼ思い出せない。

そんな私が、一つだけ昔話を妻に何度も話していた。それだけは忘れようにも忘れられないからである。
そう、『あの子は、いったい、どこに行ったのだ?』ということだ。

その後 それを深く考えるということはまったくないし、「約束がちがうじゃないか」などというような気持ちもまったくないのだが、何年たっても、単純な疑問が晴れないんである。「あれは、なんだったのか…」
ということである。

学校時代のクラスメートの名前はほぼ憶えていない私だが、彼女の名前だけはフルネームで言えるし書けるんである。
恋していたのか?と自分で自分に何度も問うことになるわけだが、どうもそういうことでもない。綺麗で頭の良い女子だったから、そういう意味では私の大好きなタイプだが、やはりそういうことでもない。

「中三の時に夕暮れの鉄筋コンクリート3階建ての校舎の廊下で、『同じ高校に行くね!』
と言った彼女は、どこに行ったのか?」
を、私はどうしても知りたかったのである。この何十年間、ずっと。

ところが…である。ある日突然、その疑問が解ける日が来たのだった。

東京近辺に中学時代の同級生が何人かおり、我が親友F君や世話焼き女史のIさん(…彼女は少年期の私の思い出の鮮明さでは一番というステキな女子だ!)が、時々プチ同窓会を企画してくれていた。

だいたい広島風お好み焼き店で開催される。(備後焼きにしてほしいものだ)

あるとき、I女史が、
「今度、Hちゃんが来るよ」
と、電話で私に言った。(まだLINEなかったのかな…)

おおおおおおおぉ~! Hか!
そう、あの彼女である。
中三のとき夕暮れの校舎で…の ”あの人” である。

彼女が来る!
やったぞ、これでオレの長年の疑問が…胸のつかえ(…言い過ぎ)がとれる、はず!

私はさっそく、その話を結婚以来、私から何度も何度も聞かされてウンザリしているであろう妻に、
「今度のプチ同窓会に、H(さん)が、来る」
と、身を乗りだして教えた。
「え、来るの?」
「そうだ!」
「じゃ、あれを聞いてきて!」
「あたりまえだ!」

私が何度も話しているので、あの【疑問】は、すでに夫婦共通の疑問になっていたのであった。

そしてその 当日となった。
そのときがきた。 私の真横に彼女が笑顔で座っていた。

私が、あの疑問を前もって皆に話していたから、
「Hさんが、やっぱ隣だろう」
ということになったんである。

ふ~む。間違いない。Hだ。覚えている声も顔も、そのままだ。
まあ、それなりに年はとっちゃったけど、賢そうで美人でもある。
医師になり、外務省関連で今は大使館勤務だそうである。だから、時々しか帰国できないらしい。

が、そういうことはどうでもいい。
あれを聞かねば!

(このお題、つづく)

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2019年01月01日