白い猫 [2]
白い猫(2) |
牛乳を飲み始めたので、私はコタツに突っ込んだ上半身を抜き、冷蔵庫から魚肉ソーセージを出し、細かく切り刻んで与えた。 子猫は、それも行儀良くゆっくりと食べた。 「体力が消耗しすぎているのだろう」 と、私は判定した。 それは正しい判定で、数日たって体力を回復した子猫に向かって、ティッシュを丸めたものを、ポイッと投げると、子猫は子猫らしく、丸まったティッシュを追いかけまわして、部屋中を駆け巡ぐることになる。 空腹で冬空に下をうろうろして、体力を消耗してはずなので、満腹になると眠るかと思いきや、子猫は、また毛つくろいを始めた。 「おいおい…なんじゃ、こいつ」 それが私の感想だった。 猫は毛づくろいをする。それは普通のことである。 が、この子猫は、なにか違う。 一心不乱というか…恍惚とした表情で、ペロペロと自分の毛並みを舐めているのである。 いや…猫はそういう表情もする。だから、別に何がおかしいということはない。 猫というものは、おおよそそういうふうなところ…毛づくろいに夢中になるときがあるものだ。 幼いころから猫好きの私は、飼い猫、野良猫、多くの猫と接してきたが、その仔猫の毛づくろいの様子は、何か違うのだった。 しばらくするとコタツで温まりすぎたのだろう、仔猫はコタツの外に出てきた。 そして、すぐまた毛づくろいを開始した。 普通…普通というのは、何が普通かという問題はあるが、こたつから出た猫はのぼせてグッタリとなり、しばらく何もせず、床に寝転がってしまうものである。(だいたいの話) が、その子猫は、コタツの外に出てからも、30分以上、毛づくろいを続けた。 う~ん、ちょっとやりすぎじゃないか? 自分の身体を舐めると気持いいのはわかるが、やりすぎでは? べつに、毛づくろいを長時間することが、悪くはないんだけど…。 ほおっておくと際限なく毛づくろいをしているので、私は仔猫を引き寄せ、首の後ろ、尻尾の付け根(背中下)、頭の上(眉あたり)など猫の好むポイントをコリコリと掻いてやった。 仔猫は毛づくろいをやめ、ゴロゴロゴロと喉を鳴らし、身体をねじって喜んだ。 子猫の喉を鳴らす音は、その小さな身体から出ているとは思えないほど部屋中い響いていた。 やっと、普通の猫らしくなった…ような気がした。 じょじょに脇や腹のほうを触っていくと、仔猫はじゃれて、すごく喜んで興奮しはじめ、私の手に爪を立てたり、私の手を甘噛みしたりした。 子猫でも、普通に体力があれば、私の手は爪のひっかきで出血し、甘噛みされたら、時に飛び上がるほど痛みを感じることがあるが、弱っていたその子猫には、そこまでの力がなかった。 しばらく体をなでていると、仔猫はやっと眠った。 子猫は、両手の平に収まる大きさでしかなく、毛色は真っ白、毛の生えていないところは透き通るようなピンク色だった。 眠っているから目は閉じてしまったが、目の色はブルーがかった灰色で、輸入された海外の猫か、雑種らしかった。 ともかく、子猫というより、赤ちゃん猫に近い。 もう数か月しなければ、とても冬の野外で生き抜けるようには思えなかった。 さて【悪夢】のことである。 私は、この仔猫を飼えない。(同居できない)。 とはいえ、まさかこの寒空に放り出せない。 赤ちゃん猫に近いから、季節が夏でも死ぬ可能性がある。 地方から上京してきた私には、この猫をもらってもらうアテもない。 部屋にいる猫が見つかれば、一大事である。 過去にそういうトラブルがあったらしく、私の入居時に契約書とは別に口頭で、大家さんから『動物厳禁』と念を押されていたのである。 私は窮した。 が、すやすや眠っている痩せた仔猫をじっと見て決意した。 「ここに住まわせよう」 猫がいることがバレれば大問題になるに違いない。しかしそのときはそのときだ。 ともかく、この仔猫がもう少し成長するまでは保護しなければならない。 独り立ちできそうになったら、その時考えよう。 まあなんとかなるだろう。 そういうふうに考えた。 そういうふうに考えるほか選択肢がなかった。 (つづく) |
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