関西風お好み焼きの店で【備後風】を焼く [2]
関西風お好み焼きの店で【備後風】を焼く(2) |
私の私見(極度に偏向した好み)だが、マスコミのグルメ番組などで、『ふわふわのお好み焼』という表現がされ、お好み焼店で取材したりしたときに、 「ふわふわ感を損なわないように、できるだけ調理中のお好みおやきに触らない」 というのが『お好み焼きを美味しく焼くコツ』と言われていることが、すっごく不審である。 『中がフワフワのお好み焼き』はそれはそれで美味しいのだが、そういうものがお好み焼きのおいしさだと大きな誤解を全世界に拡散することを、私は深く憂慮するんである。 【備後風】は、ふわふわにしない。 【備後風】が全部が全部ではないだろうし、『私流(私の母流)の焼き方』なわけだが、私の作るお好み焼は『ふわふわ』にしない。 私にとって、『中がふわふわなお好み焼き』はお好み焼きではない! (備後地方民以外を敵に回す、大胆発言! バズっても悔いなし!) 【備後風】は、お好み焼きをコテで押さえて、空気を抜いて焼く。 表面はカリカリにして、中は、『べつに柔らかくなくてもいい』ということである。 私は私の血肉となっている【備後風お好み焼きの作り方(私の母の作り方)】を駆使して、関西風として用意されたものから、私流の【備後風お好み焼】を完成させた。 「こういうのは食べたことがない」 という絶賛感想が多く、私へのお愛想もあるのはわかっているが、すごく好評であった。 そもそも世間に蔓延している、2つのお好み焼き(広島風と関西風)という妄念に迷わされて、ほとんどの人が正しいお好み焼(備後風)を食べたことがないのである。 不憫な人々である。 私はそれから汗だくになって、もう何枚かを【備後風】に焼いた。 食べるより焼くだけの日であったが、自称【備後風お好み焼き大使】の私としては(材料が関西風になっているため完全とは言えないが)【備後風お好み焼】を実際に見て食べてもらって、とても満足であった。 もう一度確認しておくけれど、その店は関西風お好み焼の店である。 店のテーブルには、 『お好み焼の作り方』という熱血指導の手書きのオリジナル説明書が、ちゃんと親切に用意されている。 そして、その説明書で力強く偏執的と思えるほど強調されているポイントこそが、『ふわふわ』なのである。 店員さんは店内にくまなく視線を配り、慣れないお客さんのテーブルを回っては、『ふわふわの関西風お好み焼』の作り方を熱心に説明しているようなところであった。 おそらく、ボウルに入れられた材料一式は、たとえば山芋を入れていたりして、『ふわふわに焼けるよう』、寝る間を惜しんでの試行錯誤の末の工夫がなされているはずである。 なのに、私はそれらを無視(全否定)したかのように、お好み焼きを押さえつけて表面をカリカリに、中はほどほどに堅めに…という、店員さんから見れば『変な焼き物』を作っているのである。 それも、いろいろ勝手なウンチクを大声で垂れながらである。 「あやつ、許しがたし!」 と、思われたに違いない。 ふと見ると、明らかに店員さんの顔が曇っている。 というのも、最初、私が店のマニュアルを完全無視して、『変な焼き方』をしているのに気づいた店員さんは、とても私に対して、すごく心配で気の毒そうな表情で近寄ってきて、 「これでは、ふわふわになりませんよ」 と優しく注意し、私からコテを取り上げて自らの実演で私の『過ち』を正そうとしたのだった。親切心であろう。 しかしながら【備後風お好み焼き】を作ることを要請されていた私は、 「あ、すみません。関西風も好きなんですけど、ちょっと私の故郷の焼き方をリクエストされたので…」 と低姿勢で説明(言い訳)し、店員さんにコテを渡すことを(断固)拒んだ。 私がコテを渡すのを拒んだので、その店員さんはかなり機嫌を損ねたようだった。 「せっかく、おいしい作り方を教えてあげようと言ってるのに、なんだよ。こんなゲテモノ作って」 みたいな感じである。 店が関西風を看板に書き、それを売り物にしているのに、そこで【備後風】をわざわざムリして作っている私が確かに良くはない。 それに店員さんの立場も信念も気配りも、じゅうぶん理解できた。 だから私は彼に逆らうよな態度は見せず、笑ってごまかしておいたが、彼のほうはプライドを破壊されたようであった。 日本人同士なのに、カルチャー対立! それからその後も何度か誘われてその店に行った。 私の気のせいだと思うのだが、事実として、3回目あたりから生地(小麦粉などの汁)がネバネバすぎて分離できないようになったボウルが来るのである。 そうなると、最初のクレープ状の下敷きが作れないので、もはや【備後風】調理はお手上げであった。 もう【備後風】は作って食べてもらったから、私としては気が済んでおり、特に【備後風】を作りたいとは思わないから、関西風でそのまま作って、おいしく食べている。 私としては、問題ない。 ただ、な~んか店員さんの視線が私に対してだけ、キツクて鋭いような気がするのだ…。 気のせいかな? (このお題、完) |
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