ボス猫捕獲大作戦 [3]
ボス猫捕獲大作戦(3) |
【ヨコヅナ】がタマのご飯を盗み食いに来る時刻は、ほぼ毎日同じくらいの時間帯であった。ヤツの町内巡回の途中の寄り道なのかもしれなかった。 そこで私は、その時刻に合わせて捕獲装置(ただのダンボール箱)を、家の戸口の内にさりげなく?置き、じっと隠れて鏡を持ち様子を伺うことにした。 こんな方法で感覚が鋭く警戒心の強い野良猫が捕まえられるはずがない!と誰もが考える。 私だってそう思っていた。たぶん無理だろうと。 でもタマのためにやってみるしかなかったのである。 ところがである。 なんと初日に【ヨコヅナ】はあっさりと箱の中に入ってしまったのだ。 やはり、おとりのエサに(高級)焼き魚を使った効果だったに違いない。 私は物陰に隠れ鏡に映してその光景を見ていたので、すぐに走り寄ってダンボール箱の入り口を押さえ、予め切って用意していたガムテープでその入口の四角い穴を2重3重に塞いだ。 穴は完全に、閉じられた! 箱の中では事態に気づいた猛獣が大暴れしていた。その振動で箱を持って保持していられないくらいであった。 私は中学生1年生で、まだ大人ほどの力は無かった。暴れるダンボールを何とか押さえておくのが精一杯だった。 【ヨコヅナ】も必死である。 動物の本能として生命の危機を感じている暴れ方であった。 そして数十秒のすさまじい動きの後と、信じられないことに【ヨコヅナ】は分厚いミカンのダンボール箱を突き破って出てきたのである。 ガムテープで補強してあるところではなく、分厚い箱そのものをぶち破って出てきたのだ。 「うわぁ!」 それは、まったくもって想像もしていなかったので、私は一瞬にしてパニくった。 私はダンボール箱を抱くように持っていたのだが、その私の顔の前に【ヨコヅナ】の凄まじい形相の頭と鋭い牙と爪が飛び出してきたのだ。 私は何か異次元世界から怪物が出てきたような、恐ろしさを感じた。 そのとき一瞬だけ、私と【ヨコヅナ】の視線が合った。 私は反射的に顔を背けた。 【ヨコヅナ】は身体をよじって箱から抜け出したかと思うと、その爪で私の右腕の内側に深い8センチくらいの長さの傷をつけると同時に、弾丸のように私の胸に体当たりし、床に落ちた。 そして、あっという間に戸口の隙間から逃げて消えてしまった。 数秒のことである。 私は呆然と、それを見送った。 私は【ヨコヅナ】のパワーに恐怖を感じていた。 『窮鼠、猫を噛む』というがまさに『窮猫、人を引っ搔く』である。 私の右手のひじの内側にはギザギザと深くえぐれた傷があって、すさまじい勢いで血が噴き出していた。 (数十年たった今でもその傷跡ははっきり残っている。顔面をえぐられなくてホント良かった…と今でも思ってしまう) こうして、私の一回目の捕獲作戦は、想像以上の【ヨコヅナ】のパワーに押し切られて失敗に終わった。 一回目? そう、私は数日後、もう一度同じ作戦を決行するのである。 愛するタマのために。 (つづく) |
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