(この項は、Rちゃんが寄稿します。この項だけは、夢か現実か…境界線な感じ…です)
いろいろ、しんどいこともあったので、仕事も休んで旅に出たときのお話です。
気の向くまま乗り物に乗っていたら、すご~く南のほうに来てしまいました。
ぶらぶらと目的もなく歩いていたら、ある川べりの日当たりのよい土手の南斜面だけ、この時期にもう菜の花がほぼ満開です。
その場所だけなんです。満開なのは。
不思議です。
こんなことってあるんでしょうか?
その黄色の花の群生に惹かれて、土手を登ってみました。
あ、黒猫が花の中に座っています。
どう見ても、あれはお友達が飼っていた【ブッチ】です。
黒猫は全部同じに見えるという人もいますが、当たり前のことですけど、全部違います。
だから、私にはわかります。
花の中にいるのは、あの【ブッチ】です。
それも、まだ若猫のころの、毛並みがツヤツヤした【ブッチ】です、
じっと菜の花の陰に隠れて、雀が来るのを狙っています。
猫って、そういうときは、すごく辛抱強いんです。
信じられないくらい長くじっとしていて、頭上を小鳥が通過する瞬間に、かる~く1mくらい空中に跳ねます。
もちろん、飛ぶ鳥を簡単に捕獲はできません。
それでも猫は、じっと待っています。
飽きるまで…。
ブッチを見ている私の時間も止まってしまって、どのくらい時間が経過したのか、私にもわからなくなったころ、土手の向こうから数羽の雀が飛んできて、ブッチのまさに頭上を通り過ぎようとしました。
その一瞬。
ブッチは思いっきり、全身の筋肉を躍動させて、本能のままに空高く跳ね上がりました。
右前足をぐいっと高く差しだして、爪を思いっきり出しました。
「あ、雀が!」
と、私は心で叫びましたが、雀たちは何事もなかったように飛び去りました。
そして、ブッチはそのまま空中で消えてしまいました。
さわさわっ…と風が菜の花の群れの上を流れました。
そう、ブッチはこんなところにいるはずがありません。
ブッチは少し前に、都会のマンションの一室で永眠しました。
最後は痩せて毛も抜け、オムツもしていました。
でも、お友達一家に、すごくかわいがられて大事にされて、20年も生きたんです。
じゅうぶん、幸せに生きたと思います。
でもブッチは、じっと部屋の中にいて外に出たことがありませんでした。
だから、だぶんですけど、天国に行く前に、一度、青空の下で【狩】をしてみたかったんだと思います。
空を飛ぶ、頭上の雀に爪をかけようとした瞬間、ブッチは、
「やったぁ!」
と思ったんでしょう。
でも、ブッチはもう霊になっているので、その爪は雀の体をすり抜けました。
ブッチは、天に上る途中で、
「う~ん、あれは惜しかったぞ。天界に行ったら、神様が怒るかもしれないけど、いっぱい雀を獲ってやろう」
と考えたはずです。
それが、猫ですもん。
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『菜畑に 花見顔なる 雀かな』(芭蕉)
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(このお題、完)
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