夏休みの自由研究の顛末 [2] 


夏休みの自由研究の顛末

夕方近くなったころ、私は2本目のアイスキャンディーを食べならが売店の横に座っていた。
すると突然俄かに空が暗くなり、見上げると恐ろしいほどの分厚い雷雲が発生していた。

すぐに雷鳴とともに雨が降り出したと思うと、もう土砂降りで辺りがかすむほどになった。
今ならAI技術も進んでおり、施設の管理責任上、雷雲の動きを事前予測し、それが近づけば落雷の危険を場内放送し、係員が利用者を室内に強制退避させるだろうが、当時は、
「お、雷雨じゃ」
くらいのことであった。

私などは、
「どうせ濡れているのだし、これは面白い」
ということで、そのまま雨を浴び続けて面白がっていた。
夕立の後もしばらく遊んでから家に帰った。

その豪雨は時間的には長くなかったが、今でいうゲリラ豪雨であり、滅多にないほどの降水量だった。帰り道の田んぼの畦などには降水があふれていた。

家に帰ると家の周囲も洪水のようになっていた。
私はふと気になって、庭の観察装置の確認に行った。

「あ!」
そこには大事件が勃発していた。

この実験装置のガラス瓶は海苔の保管用のもので、手を入れて中身が取り出しやすいように蓋の口が大き区作られていた。
普通の雨量なら大丈夫だったろうが、その日は類の無い豪雨であったため、瓶の中は雨水があふれていた。

瓶の中にいたハエの幼虫たちは、雨水とともに瓶からあふれて流れ出て、ほとんどが脱出してしまっていた。
見ると、庭のあちこちにハエの幼虫がウニウニと動いて、ランナウェィ中である。(書いてて、気持ち悪いぞ!)

私は慌てて、刑務所の看守のごとく逃避する幼虫たちを確保することに専念したが、夕立から数時間も経過しているため、確保できた個体は少なく、彼らの大脱走はほとんど完了していた。

私は瓶にいっぱいになっている雨水を捨て、確保した幼虫たちを瓶の中に戻したが、自由研究としては明らかに赤信号であった。
私は悲しかったが、科学研究の趣旨にのっとり、その日のことも正確に記録した。

もう瓶の中には数えるほどしか幼虫がいない。
そのうえ瓶の中は雨水で洗い流され観察環境が激変である。まだ子供だし、その事態をどう処理したら研究を継続できるのか、私には良い考えがなかった。

というわけで、私はひどく落胆し研究記録は中断した。

私の熱しやすく醒めやすいという性格もあり、なんかもうやる気がなくなった。

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そして、その数日後の庭での出来事(庭の土中で多数の小豆を発見)が、この項の冒頭の光景である。

庭を掘っていると、ぞくぞくと出てくるのである。
そう、ハエの蛹(サナギ)であった。大量の。(不気味…)

それがハエの蛹であるとわかったとき、私の研究意欲が再燃した。
「まだ、研究はいける!」

私は、庭の隅々を掘り返して、蛹の分布を記録した。
ハエの幼虫gは、どんな場所でどういう分布で蛹になっているかという考察は、重要な着眼点として研究項目となるはずであった。

その数日中に、私の育てた蛹は次々と成虫の立派なハエとなり、庭から宙を飛んで私の母がやっている店に飛び込んでいった。すぐそこだから、そうなるだろう。

う~ん、なんかマズイぞ。
エアコンもなく戸口が全部開け放たれた店だから、来る者拒まず!である。

母は私の科学研究(夏休みの宿題)を成績アップを期待する親心で強く支持してくれていたが、思わぬ結果(飲食物を提供する店の裏庭でのハエの大発生という保健所もびっくりの事態)に困惑し、隠しきれない怒りの表情を示していた。

まあ当然であろう。

私はしばらく、【ハエ叩き】という原始的な用具で、母に店内のハエの退治を命じられた。(飲食店なので、殺虫剤は使えない)

そして店の片隅の天井には、ハエ取り紙がいくつもぶら下げられた。
(当時はそのくらいの衛生推進装置でのキモイ装飾?にはお客もまったく平気で食欲に影響なし!)

私のそうした努力にもかかわらず、私の研究は何の賞も獲らなかった。

それどころか【気持悪い変な研究】としてしばらくの間、周囲をざわつかせた(らしい)。

私の科学者への道は、そのようにして絶たれた。

(このお題、完)

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2019年02月04日