小切手事件
同人誌 『バレーボールゲームをめぐる本当の物語』 からの一部抜粋紹介 (2025年末に全文掲載予定)
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1600円という価格で私の本を購入された方が 多数おられるので、近々の無料公開では、 「私は買ったのに…」 と思われるでしょう。
とはいえ、 すでにこの同人誌は販売されていません。 (販売終了の経緯は、連載の中で書きます) もちろん、この本の内容は、 まだまだ広くお伝えしたいのです。
この同人誌の販売の半数以上は、 私がイベントで、直に手売りしました。 ですので、買われた方のお気持ちも考慮し、 HPや note での公開は、少し後にします。
ここでは、内容の一部だけ公開します。 ”不穏な雰囲気”は伝わるかと思います。
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【第5章】小切手事件
<一部先行公開>
(…略)
「で、本谷さんは大丈夫なの?」 「俺?俺は大丈夫ですよ。もともとフリーランスなんだし、もうファミコン開発も覚えたし、ここにいなくても…」 「そういうことじゃなくて、バレーボールゲームのことだよ」 「ああ、それは、ちょっと変ですけど」 「ちょっとじゃないだろ」
そう、確かに私は不安を感じていたのだ。
『任天堂バレーボール』が発売されて1年以上経つのに、原作者で移植版ディレクターである私に売り上げや原作料などについて何の報告もなかった。 何度か立本氏に話してみたが、その都度ノラリクラリと、ごまかされていたのだ。
今思えば嘘とわかるのだが、任天堂から報告がないとか、初めにもらったお金はエレクトロニカのほうの負債にあてたから、今はソフトニカには金がない、とか言い訳をされていたのである。
「この会社が景気がいいのは、本谷さんのバレーボールのおかげだろ」 「まあそうです。橋下さんがいい感じで移植してくれたし。そもそも浦山さんが任天堂に持ち込んで話を決めてくれたからだけど」 浦山氏は、眉を寄せて言った。 「そこがなぁ、おかしなことになってるぞ」 「おかしなこと?」
(…略)
立本氏は、その私の予期せぬ反撃にやや窮した。 おそらく浦山氏にお金を渡すときに、 「本谷には言うな!」 と口止めし、あのお金には口止め料も入っていたのだろう。
けれど、浦山氏は私との友誼か、私への同情かで、その後のために私に貸しを作る目的か、で私に話してくれたに違いなかった。
立本氏は、私がそれ以上色々言って抵抗を続けるとマズいと感じ、この場の話を早く終わらせようと思ったのか、鞄の中から小冊子を取り出して、私の前にポイっと投げた。
それはテーブルの上で音をたて、少し滑って私の前で止まった。
なんだ、これ?
立本氏が、 「小切手帳だ」 と言った。
私はその小切手帳をじっと見た。
小切手帳というものを人生で初めて見たし、その後も見たことはない。 立本氏は、薄ら笑いを浮かべながら、 「まあ、お前がかわいそうだから…」 と言った。
(…略)
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任天堂バレーボールと 任天堂さんとの開発部隊契約で、 パックスグループには、 お金はたくさん入ってきた。
みんなで、幸せになれたのに。
私がバカだといえば、そうなのだろうけど、 「今、他でお金が必要だから」 と言われ、私は信じて協力して、待った。
勝手にお金を使いまくってたわけで。 それも、ゲームと無関係なところに。
なぜ、 そこまで、お金に汚いのだろう。 人としての矜持はないのだろうか?
汚い世界に嫌気がさした私が、 『あのとき戦わなかった負け犬』だと 思われる方もいるのだろうけど。
けれど、あのとき、私が怒りに任せた、 行動をしていたら、 任天堂バレーボールは、 発売されていなかったと思う。
任天堂バレーボールを世に出すために、 私は、堪えたわけなので。
なにしろ、私が愛したバレーボールを ゲーム化した私が、それを潰せないもの。
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